労働災害への事業主の向き合い方

労災事故が発生した場合における事業主や会社の責任

雇用している労働者が労災事故に被災したとしても「労災保険からの補償が出るのだから、事業主や会社は何らの補償や賠償をする必要はない」と勘違いをされている事業主や経営者の方が相当数いらっしゃいます。

しかし他の記事でも度々触れていますが、事業主や会社が労災事故に遭った労働者の死傷病について、民事上の賠償責任を負うと考えられる場合が少なくありません。

事業主や会社が民事上の賠償責任を負う場合、労災保険からの支給額だけでは実際に発生した本来の損害額に満たないことが多く、そもそも慰謝料が労災保険の補償対象外であるため、労災事故に遭った労働者が被った損害を填補するには不十分であることが多いです。

このように、労災事故に遭った労働者が被った損害が、労災保険からの支給額だけでは填補され切れていない場合、労災事故に遭った労働者は労災保険の給付請求とは別に、事業主や会社に対して損害賠償請求を行うことができることになります。

また、場合によっては刑法上の業務上過失致死傷罪等に問われることもありますので、注意が必要です。

以下では、事業主や会社がどのような法律上の根拠のもと賠償義務を負うこととなるのか、これに対する事前の対応策や実際に労災事故が発生してしまった場合に事業主や会社が取らなければならない措置について解説していきます。

事業主や会社が賠償義務を負うこととなる法律上の根拠

(1)安全配慮義務

事業主は労働契約の当事者として、労働者が安全に就労できるようにする義務を負います。
これを事業主の「安全配慮義務」といいます。

安全配慮義務の具体的内容は以下の2点です。

・労働者の利用する物的施設・機械等を整備する義務 
・安全等を確保するための人的管理を適切に行う義務  
  a.危険作業を行うための十分な資格・経験を持つ労働者を配置する義務
  b.安全教育を行い、あるいは危険を回避するための適切な注意や作業管理を行う義務

事業主が安全配慮義務を怠ったために労働者が労働災害にあったとき、事業主は労働契約違反として、民法上の損害賠償責任義務を負います。

(2)不法行為責任

労災事故が発生した場合、事業主や会社が負うであろう不法行為責任は、一般不法行為責任(民法709条)、使用者責任(民法715条)、土地工作物責任(民法717条1項)が考えられます。

事業主や会社に労災事故発生の予見可能性があり、結果を回避すべき義務を怠り、これと因果関係のある損害が発生した場合は一般不法行為責任が成立します。

また、事業のために使用していた者について、一般不法行為責任が成立する場合、その不法行為が事業の執行につきなされたという場合、事業主や会社がその者の選任や監督について相当の注意をし、または相当の注意をしても損害の発生が免れなかったのでない限り、事業主や会社は労災事故に被災させられた労働者に対し使用者責任を負います。

さらに、土地工作物の設置または保存の瑕疵と因果関係のある損害が労働者に発生したという場合、事業主や会社は、土地工作物責任を負うこととなります。

(3)自賠責保険法

労災事故に車両が関係する場合、事業主や会社は自賠責保険法に基づく賠償責任を負うことになる可能性があります。

当事務所において取り扱った労災事故事案についても実際にそういった案件がありました。

自賠責保険法が適用される場合、立証責任が労働者側から会社側へ移ることになります。そのため、安全配慮義務や不法行為責任が責任の根拠となる場合よりも会社が賠償責任を負うこととなる可能性が高くなるといえます。

事前の対応策

事業主は、労働災害を未然に防ぐために、安全管理体制を整える責任があります。

労働災害発生の防止策として、「安全衛生管理体制の構築」「安全衛生教育・健康診断の実施」「メンタルヘルス対策」の3つが考えられます。

(1)安全衛生管理体制の構築

安全衛生管理体制を築くには、管理責任者の選任と委員会の組織化が求められます。

管理責任者は、次のような者を指します。

  • 安全管理者(事業場の安全について実際に管理する専門家)
  • 衛生管理者(事業場の衛生について実際に管理する専門家。業種を問わず選任必要)
  • 統括安全衛生管理者(安全衛生についての業務を統括管理する最高責任者)
  • 安全衛生推進者・衛生推進者(小規模事業場で、選任が義務づけられている)
  • 産業医(医師として労働者の健康管理を行う)
  • 作業主任者(特に危険・有害な業務で政令を定めるものについて選任が必要)

管理責任者以外にも、労働者の意見を反映させるための「安全委員会・衛生委員会」の設置が求められます。

(2)安全衛生教育・健康診断の実施

事業主は、労働者に対して「機械等・原材料等の危険性・有害性・取り扱い方法」「安全装置・有害物抑制装置・保護具の性能・取り扱い方法」などの安全・衛生面における教育を行う必要があります。

また、個々の労働者の健康状態を把握し、適切な健康管理を行うための「健康診断」も定期的に実施しなければいけないでしょう。

さらに事業主は、疲労の蓄積が認められる労働者に対して申し出が出た場合、面接指導を行う義務を持ちます。

事業主は、必要であれば就業場所の変更・労働時間の短縮などの措置を取りましょう。

(3)「メンタルヘルス対策」

近年、心の病に関する労働災害認定が大きな問題となっています。事業主は、労働者の精神面での健康を保つために、労働環境を整える責任があるといえるでしょう。

メンタルヘルス対策では、心の病を患う労働者を出さないように、未然に防止策を講じることが何よりも重要です。

防止策として、「相談窓口の設置」「精神負担の大きい管理職の研修」「産業カウンセラーの導入」「ストレス・チェック」などが考えられます。

精神面における労働災害が認められた社員については、「専門家との連携で社員をケアする」「十分な休職期間を設ける」「職場復帰における会社内の安全衛生に関する規定を整える」といった対策が必要でしょう。

事業主は、メンタルヘルス対策において「情報」の取り扱いに関して最大級の注意を払う必要性があります。心の病に関する情報は、性質上、厳重な管理が求められます。

事業主は、個人情報保護法の規定をよく確認し、情報を入手する際は、労働者の同意を得ることを心がけてください。

実際に労災事故が発生してしまった場合に事業主や会社が取らなければならない措置

(1)労働基準法上の補償責任

事業主は、労働災害が発生し労働者が健康を害した場合に、労働基準法により補償責任を負わなければいけません。

しかし、事業主が労災保険に加入している場合は、労災保険の給付がおこなわれ、事業主は労働基準法における補償責任を免れることができます。事業主にとっては、労災保険は強い味方といえるでしょう。

ただし、労働者が労働災害によって休業する1日目~3日目に関する補償は、労災保険から給付されません。事業主は労働基準法で定める平均賃金の60%を直接労働者に支払う必要があるので注意が必要です。

(2)死傷病報告の届出義務

労働災害により労働者が死亡または休業した場合に、事業主は遅滞なく「労働者死傷病報告」を労働基準監督署長に届けでなければいけません。

労災死傷病報告の届出は、以下の4条件のときに必要となります。

  • 労働者が労働災害により、負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
  • 労働者が就業中に負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
  • 労働者が事業場内又はその附属建設物内で負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
  • 労働者が事業の附属寄宿舎内で負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき

労働者死傷病報告は、労働災害統計の作成・労働災害の原因分析・同種労働災害の再発防止策の検討に生かされます。

労働災害防止のための安全管理体制を整える責任がある事業主には、労働者死傷病報告を届け出る責任があります。

届出を怠ったり、虚偽の届出を行ったり、出頭しなかった場合は、50万円以下の罰金刑が課せられます。

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