過重労働によって自殺するに至った事例

事故類型自殺
職種建設現場の管理等
傷病名(症状)うつ病
相談時の状況故人
年代40代
勤務形態正社員
被災した状況過重労働によってうつ病を発症し、その後自殺するに至った。
ご相談者
目次

相談内容

被災者は、建設会社で正社員として働いていた。労働時間は極めて多く、毎朝6時に家を出て終電で帰宅するような生活は当たり前であり、泊まり込みで労働していることもしばしばあった。実際に時間外労働(週40時間を超える労働)は、1年を通して月平均100時間は超えており、月によっては200時間近くになることもあった。

このような過酷な労働環境の下で、被災者はうつ病にかかってしまい、休職⇒復職⇒休職を行ったが、ある日、自殺してしまった。被災者が自殺した原因は、会社が加重な労働を行わせていたことにあるから、会社に損害賠償請求を行いたい。

被災者のご遺族から、以上のようなご相談をお受けしました。

弁護士アドバイス

①遺族補償給付申請

まず、労災保険の遺族補償給付を申請することをアドバイスいたしました。

労災保険の遺族補償給付とは、業務に起因して労働者が死亡した場合に、残された遺族の生活保障のため、一定額の年金を労災保険から給付する制度です。

遺族補償給付が認められるためには、労働者の業務と死亡との間の因果関係(業務起因性)が認められる必要があります。過労死や過労自殺の場合にはこの業務起因性がよく争いとなりますが、労災保険実務上は、精神障害を発症する前6ヶ月の時間外労働が80時間(いわゆる過労死ライン)を超えている場合には、業務起因性が認められやすくなります。

本件では、明らかに過労死ラインを超えている時間外労働でしたから、遺族補償給付が認められる可能性が高かったため、申請することをアドバイスいたしました。 遺族補償給付を申請することにより、労基署が時間外労働や労働実態調査のため、会社や遺族に聴き取りや資料収集を行います。ここで、労基署が収集した資料等は、損害賠償請求における重要な証拠となります。

②保有個人情報開示請求及び簡易調査報告書のご依頼

上記1のアドバイスを行った後、ご遺族から遺族補償給付が認められた旨のご連絡を頂きました。そこで、ご遺族が会社に損害賠償請求する見通しを付けるため、労基署が遺族補償給付を審査するに当たって収集した資料などの保有個人情報開示サポート及び同開示資料に基づく損害賠償請求の見通しを報告するサービスのご依頼をお受けすることといたしました。

保有個人情報開示の結果、タイムカード等の証拠上も、過労死ラインを優に超える労働を長期間に渡って課していることが明らかになりました。また、損害賠償額としても、1億円近くに上ることが判明いたしました。

そこで、ご遺族には、判例や裁判例の傾向に照らし、労働者に対し「業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務」(安全配慮義務違反。最判12.3.24民集54.3.1155=電通過労自殺事件)の違反を立証できる可能性が高いこと、会社に請求可能な損害賠償請求額は最大で1億円近くになることなどを、簡易調査報告書でご報告いたしました。

③会社に対する損害賠償請求交渉

会社には、労基署から開示した資料や判例・裁判例を丁寧に示して、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を行いました。

しかし、会社は、弁護士を立てた上で、安全配慮義務違反を真っ向から否定し、損害賠償を拒否してきました。 このような対応は全く不当なものでありましたので、労働審判を申立てて、法的手続きによる解決を図ることといたしました。

所感・まとめ

奥様は、ご主人を亡くされた精神的ショックと、今後の生活への不安がおありでしたので、我々がお力になれることとして、まずは労災保険に申請し、生活の基盤を確保するアドバイスをいたしました。

労災事故の場合には、治療に専念する段階、労基署に労災を認めて貰う段階、資料や証拠を収集する段階、会社側の責任を追及する段階、と様々な段階があります。本件では、まず、一家の大黒柱を失ってしまったご家族の生活の基盤確保を第一として、そこから資料収集や損害賠償請求へと進む方針としました。

当事務所では、ご相談者様のおかれている状況やご要望を伺った上で、今何をすべきか、これから何をしていくべきか、という視点でアドバイスを行っております。ご家族が労災事故に遭われた場合、特に家計を支えていた方が亡くなった場合には、1日でも早く専門家へご相談されることをお勧めいたします。

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