労働災害に遭ってけがを負い、治療のために入院や通院が必要になった場合、被害者の方は会社に対し、治療に必要な費用や、入院・通院によって仕事を休む必要が生じ、収入が減少した分の補償などを請求することができます。
本項では、入・通院に関連して発生する主な損害賠償費目についてご説明します。
治療関係費は、病院における入院費、手術費や通院治療費が挙げられます。
これらの費用は、原則として医学的に症状固定と判断された時まで、必要かつ相当な範囲で実費の請求ができます。必要性、相当性が認められない過剰診療や高額診療は請求できない場合があります。
温泉治療費や入院中の特別室の使用料が請求できる場合もありますが、医師の明確な指示があり、治療上有効かつ必要といえるとか、特別な事情(他の空室なし、重症事案等)がなければ認められない傾向にあります。
また、認められたとしても総額のうち部分的に認められる限度というケースが多いです。
症状固定後の治療費や将来の手術費・治療費等については、否定的に考えられている場合が多いですが、症状の内容によって、または重症事案では認められる場合があります。
例えば、左大腿骨骨頭部骨折後の人工骨頭置換について、人工骨頭の耐用年数(15年)から3回の手術が将来的に必要となるとして、将来手術費が認められた裁判例(さいたま地判H23.11.18)等があります。
付添費は、原則として医学的に症状固定と判断された時まで、医師の指示があり、または受傷の程度、被害者の年齢等により、請求できる場合があります。
幼児、重症事案等の場合には請求が認められやすい傾向にあります。
通院交通費は、原則として医学的に症状固定と判断された時まで、電車・バス等の公共交通機関の利用料または、自家用車を利用した場合のガソリン代が請求できます。
駐車場代、高速道路利用代も請求対象になりえます。なお、ガソリン代は現状1km15円換算です。駐車場の代金、高速道路を利用した場合は高速代金などを請求することができる場合もあります。
しかし、タクシーを利用する場合は、被害者のお住まいの交通の便や、けがの症状などで公共交通機関を利用することが容易ではない場合に限られます。
休業損害とは、労働災害によってけがを負った被害者が、入院期間、通院期間に仕事を休んだことにより、現実に収入が減少した場合の減収分の補償です。
ただし、現実の減収がなくても、入通院のために有給休暇を利用した場合は、有給分が請求対象になります。休業損害の計算にあたっては、事故前の1日あたりの収入と、医師が判断した休業日数によって計算されます。
休業損害は、職業によっても違いがありますので、死亡や後遺障害が労災認定された場合、弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
けがによる治療のための入・通院に対する慰謝料は、傷害慰謝料と定義されています。
傷害慰謝料とは、事故によるけがを負ったことによる精神的苦痛、入・通院によって体や時間の自由が奪われることによる精神的苦痛など、事故によって負ったけがに関連する様々な精神的苦痛を金銭的に補うための賠償費目です。
精神的苦痛の度合いは、受傷の内容・程度や個々人によって異なるところですが、個々人について正確な精神的苦痛の度合いを測定して金銭的に評価することは事実上不可能と言わざるを得ません。
そのため、入院や通院の期間、実際に通った日数、むち打ちなどのように他覚症状が乏しいけがか否かによって、一律の算定基準が設けられており、この基準によって裁判の実務は運用されています。
裁判基準の場合、実際に治療を受けた日数の3倍または全治療期間日数のいずれか少ない方の日数を基準として算定します。
死亡や後遺障害が労災認定された場合、適正な賠償金の計算について、弁護士にご相談されることをおすすめします。
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