被告下請会社は、鋼船の建造修理を行う被告造船会社から2000トンクレーン船の油圧パイプのフラッシング工事(パイプの汚れ・異物などを洗浄する工事)を請負い、被災者は被告造船会社の所内工場にある建造中の船上でフラッシング工事を行っていました。
工事中、被災者がフラッシングオイル(汚れを洗う成分が入ったオイル)をドラム缶から貯蔵タンクへビニールパイプで送給を始めたところ、不調を感じたため、ビニールパイプを点検しながら、タンク側からドラム缶の方へ歩いて行きました。その途中、甲板上の開口部(縦1.77メートル、横1.228メートル)から深さ約6メートルの船底に墜落し、頭蓋底骨折により約7時間後に死亡した事故です。(神戸地判昭和48年4月10日判例時報739号103頁)
約1,419万円
本件事故は、甲板上の開口部に墜落防止装置が全くなされていなかったため、発生しました。
主に「被告下請会社と被告造船会社のどちらに不法行為責任があるか」「過失割合はどうなるか」が争点となりました。
原告は、被告造船会社は、建造する船体上の直接管理支配している作業場設備内では、労働者に危害が発生しないようにするため、開口部に墜落防止措置をなすべき義務があるのに、これを怠ったため、被告造船会社に不法行為の責任があると主張しました。
また、被災者は被告下請会社の現場責任者社員の指揮監督下にあった現場作業員であり、作業の着手・終了、作業個所・内容の決定権は現場責任社員が握っていたため、同人は現場責任者として労基法により、囲い、手摺り、覆い等の墜落防止措置を講ずべき義務があった。
また労働災害防止団体法(以下、災防法)により、被告下請会社は、作業現場を点検し開口部の有無を確かめ、開口部に墜落災害の発生を未然に防止すべき措置を講ずべきことを被告造船会社に連絡要請すべき義務があったと主張しました。
同被告は、油圧パイプのフラッシング工事の単なる注文者に過ぎないから、民法上墜落防止義務を負うものではなく、ドラム缶からオイルタンクに送油するためのビニールパイプを引布することは、同被告は指示をなさず、また指示をなすべき立場にはなく、被災者らの自由に任されていた。そして被災者は、事故当日の昼頃に現場を検分しており、本件開口部の存在も充分承知していたのに、開口部に近接してビニールパイプを引布したから不注意の責を免れないと過失相殺を主張しました。
本件作業が行われるに至ったのは、被告下請会社の監督者である社員が尾道に引揚げた後に、被告造船会社の直接指揮系統を無視して、旅館に休養中の現場作業員に徹夜作業を要求したためであり、災害発生当時の現場責任者は被災者自身で、監督者である社員には何の過失はない。
危害防止義務は設備を所有または占有している使用者に課しており、被告下請会社は客先の設備についてそのような権限はないから、同条の適用外である。したがって同被告は、労働安全衛生規則の墜落防止措置の義務はない。
また災防法は、労基法および労働安全衛生規則に対し特別規制立法であり、被告造船会社が先行義務である災防法の責任を負う限り、被告下請会社は労基法上の責任はないと主張しました。
船体の管理者として、被告下請会社の労働者が甲板上の開口部付近で工事をする際には、墜落防止の措置をとり災害の発生を未然に防止すべき条理上当然の注意義務がある。
ところが被告造船会社はこれを怠り、なんらの措置を講じなかったため本件災害が発生したから、同被告は被災者に対し不法行為責任を負うものといわなければならない。
被告下請会社は、使用者として労基法上の義務のほか工事につき、甲板上の開口部に墜落防止措置を講ずべきことを注文者で管理人である被告造船会社に要請すべき条理上当然の注意義務がある。
ところが被告下請会社は注意義務を怠り、墜落防止の措置を講じなかったため本件事故が発生したから、被告下請会社も被災者に対し不法行為責任を負うものといわなければならない。
裁判所は、上記のように、被告造船会社、被告作業会社に本件事故発生に関する注意義務違反を認めました。 一方、被災者には開口部付近を通行するに際して万全の注意を怠ったとして、20%の過失相殺がされました。 |
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