被災者は、事故発生場所で鋼材の分解作業に従事していました。被災者の直近で、被告会社従業員の運転する油圧ショベル(通称:ユンボ)がバッカン(高さ0.7m、縦1.3m、横は上部2.1m、底部1.6m、重量約1トンの金属容器)を移動させる作業を行っていました。
油圧ショベルのアームの先端は、可動する2つのフォーク状の爪となっており、被告は、2つの爪を開いた状態にして、バッカンを上部から挟みこんで持ち上げ、これを移動しようとしていましたが、アームが左旋回を開始したとき、右バッカンが落下し、地上を転がり、被災者に衝突し、被災者は頭蓋骨骨折等の傷害を負い、即日死亡しました。
(神戸地判平成9年4月15日交通事故民事裁判例集30巻2号545頁)
約1250万円
(これとは別に、自賠責保険金から3000万円、被告会社から50万円、労災保険の遺族補償年金約243万円/年が支払われています)
本件は、原告が被告(油圧ショベルの運転手本人及び、油圧ショベルを所有し、運転手を雇用していた会社)に対して、損害賠償請求を行った事案です。
今回の大きな争点のひとつは、過失割合でした。
●2つの爪を開いた状態にして、バッカンを上部から挟みこんで持ち上げ、これを移動しようとする方法自体が危険な方法である。
●被災者は、油圧ショベルのアームの回転半径外におり、運転者がアームを回転させた際に右バッカンが落下し、地上を転がって被災者に衝突したものでまったく予測しえない事態だった。
従って、過失相殺の対象となるべき過失はない。
〇本件事故発生場所は、工場の敷地内であり、被災者も作業に従事していたので、油圧ショベルのアームの回転半径内に立ち入ることの危険性を充分に認識していたはずである。
〇自らの安全を確保するため、回転半径内に不用意に立ち入らないよう注意すべき義務があった。
従って、被災者の過失は2割を下回ることはない。
★運転者は周囲の安全を充分に確認した後に車体を旋回すべき注意義務を負う。ところが、運転者は車体の旋回を開始した直後に初めて被災者の存在を認めたのであって、注意義務に違反していることは明らかである。
★アームの死角に人が入ることも充分考えられるから、安全監視員を配した上で作業を行うべきであり、運転者に単独作業を命じた被告会社の責任もまた重大である。
★さらに、アームの先端の爪で重量のあるバッカンを上部からつかみ上げるという作業自体バッカンが固定されているわけではなく、常に落下の危険性を内包しているから、避けるべきであった。
他方で、
◆被災者もそれほど離れていない場所で油圧ショベルが作業を開始したことを認めていたのだから、終始その動静に注意を払い、必要に応じて作業場所を変更すべきであった。
よって、被災者と被告らの過失を対比すると、被告らの過失の方がはるかに重大な為、被災者の過失割合は1割とするとしました。また、被告会社の使用者責任(民法715条)も認め、運転手だけでなく、被告会社にも損害賠償を命じました。
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