労災保険のアスベスト被害認定基準

1.アスベスト被害者の労災保険利用について

アスベストの職業性ばく露のうち、労災保険の業務災害性が認められるものを労災保険の枠内で救済する制度のことです。「石綿による疾病の認定基準」という特別な認定基準が定められています。
被害者がご存命(治療中)の場合には、被害者ご本人が給付の請求権者となり、労働基準監督署へ労災保険の申請を行います。被害者が既にお亡くなりの場合には、ご遺族(※1)が給付の請求権者となります。いずれの場合にも、審査を経て労災認定がなされると、労災保険から給付金(※2)が支払われます。

※1ここでいう遺族とは、残されたご家族の誰でも、という意味ではありません。請求する給付金毎に、受給資格者や受給順位が定められています。
詳しくは、厚生労働省のホームページをご覧下さい。

※2労災保険から支払われる具体的な給付金の内容につきましては、労災保険給付内容の一覧をご覧ください。
また、環境再生保全機構ホームページ―石綿で健康被害にあわれた方への支援や厚生労働省ホームページ―労働基準情報:労災補償もご参照下さい。


2.労災保険給付の認定基準概要

労災保険給付の認定を受けるには、大きく分けて、2つの要件を満たしている必要があります。

① 対象となる5つの疾病(中皮腫や肺がんなど)のうちいずれかを発症している。 そして、その疾病毎に定められた認定基準を満たしている。

② ①を発症したのは、労働者として石綿(アスベスト)ばく露作業に従事していたことが原因である。(業務上疾病である)

上記①、②をいずれも満たし、労基署から「業務に起因する疾病である」と認定された場合には、労災保険から給付を受けることができます。


3.労災保険の適用となる石綿ばく露作業

アスベスト被害で労災保険給付を受けるためには、石綿ばく露作業に従事していた労働者※である必要があります。労災保険の適用となる「石綿ばく露作業」は以下のとおりです。

※各作業の詳細については、厚生労働省ホームページをご覧ください。

① 石綿鉱山またはその附属施設において行う石綿を含有する鉱石または岩石の採掘、搬出または粉砕その他石綿の精製に関連する作業
② 倉庫内などにおける石綿原料などの袋詰めまたは運搬作業
③ 石綿製品の製造工程における作業
④ 石綿の吹付け作業
⑤ 耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱もしくは保温のための被覆またはその補修作業
⑥ 石綿製品の切断などの加工作業
⑦ 石綿製品が被覆材または建材として用いられている建物、その附属施設などの補修または解体作業
⑧ 石綿製品が用いられている船舶または車両の補修または解体作業
⑨ 石綿を不純物として含有する鉱物(タルク(滑石)など)などの取り扱い作業
上記①~⑨のほか、上記作業と同程度以上に石綿粉じんのばく露を受ける作業や上記作業の周辺などにおいて、間接的なばく露を受ける作業も該当します。


4.労災保険給付の対象となる疾病について

給付の対象となる疾病は、以下のとおりです。なお、石綿健康被害救済制度と異なり、良性石綿胸水も給付の対象です。
(1)石綿肺(石綿肺合併症を含む)
(2)中皮腫
(3)原発性肺がん
(4)良性石綿胸水
(5)びまん性胸膜肥厚
認定基準は、上記疾病ごとに定められていますので、以下で説明いたします。

※厚生労働省のホームページに挙げられている認定事例のとおり、認定要件を満たさない場合でも、総合的な判断で業務上と認定される場合もあるようです。詳しくは、『石綿による疾病の労災認定』「4 石綿による疾病の認定事例」をご覧ください。


4―1.石綿肺(石綿肺合併症を含む)の認定要件

石綿ばく露労働者に発症した疾病であって、じん肺法に規定するじん肺管理区分(管理1~4)に基づき、以下の①、②のいずれかに該当する場合、業務上の疾病と認められます。
なお、原則として、都道府県労働局長によってじん肺管理区分の決定がなされた後に、業務上の疾病か否かが判断されます。
① 管理4の石綿肺(石綿肺によるじん肺症)
② 管理2、管理3、管理4の石綿肺に合併した疾病※
※合併した疾病とは、次の疾病をいいます。
◆肺結核
◆結核性胸膜炎
◆続発性気管支炎
◆続発性気管支炎拡張症
◆続発性気胸


4―2.中皮腫の認定要件

石綿ばく露労働者に発症した胸膜、腹膜、心膜または精巣鞘膜の中皮腫※であって、じん肺法に定める胸部エックス線写真の像の区分(第1~4型)または石綿ばく露作業従事期間が、以下の①、②のいずれかに該当する場合、業務上の疾病と認められます。
ただし、最初の石綿ばく露作業(労働者として従事したものに限りません)を開始したときから10年未満で発症したものは除きます。
① 胸部エックス線写真で、第1型以上の石綿肺所見がある
② 石綿ばく露作業従事期間1年以上

※中皮腫は診断が困難な疾病であるため、認定に当たっては、病理組織検査結果に基づき、中皮腫であるとの確定診断がなされていることが重要ですが、病理組織検査が実施できない場合には、臨床検査結果、画像所見、臨床経過、他疾患との鑑別などを総合して判断されます。


4ー3.原発性肺がんの認定要件

石綿ばく露労働者に発症した「原発性肺がん※」であって、以下の①から⑥のいずれかに該当する場合に業務上の疾病と認められます。
ただし、最初の石綿ばく露作業(労働者として従事したものに限りません)を開始したときから10年未満で発症したものは除きます。
※原発性とは、他の部位から肺に転移したものではないという意味です。


① 石綿肺所見※がある
※じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型以上である石綿肺所見をいいます。

② 胸膜プラーク所見がある + 石綿ばく露作業従事期間10年以上※
※石綿製品の製造工程における作業(3.労災保険の適用となる石綿ばく露作業の③)については、平成8年以降の従事期間を実際の従事期間の1/2として算定します。

③ 広範囲の胸膜プラーク所見がある※ + 石綿ばく露作業従事期間1年以上
※広範囲の胸膜プラークとは
◆胸部正面エックス線写真により胸膜プラークと判断できる明らかな陰影が認められ、かつ、胸部CT画像によりその陰影が胸膜プラークとして確認される場合
◆胸部CT画像で、胸膜プラークの広がりが胸壁内側の1/4以上ある場合

④ 石綿小体または石綿繊維の所見※ + 石綿ばく露作業従事期間1年以上
※石綿小体または石綿繊維の所見については、以下のいずれかであることが必要です。
◆石綿小体が乾燥肺重量1g当たり5,000本以上ある
◆石綿小体が気管支肺胞洗浄液1ml中に5本以上ある
◆5μmを超える大きさの石綿繊維が乾燥肺重量1g当たり200万本以上ある
◆1μmを超える大きさの石綿繊維が乾燥肺重量1g当たり500万本以上ある
◆肺組織切片中に石綿小体または石綿繊維がある

⑤ びまん性胸膜肥厚に併発
4-5のびまん性胸膜肥厚の認定要件を満たすものに限ります。

⑥ 特定の3作業(※1)に従事 + 石綿ばく露作業従事期間(※2)5年以上
※1「特定の3作業」とは
◆石綿紡織製品製造作業
◆石綿セメント製品製造作業
◆石綿吹付作業

※2「従事期間」とは
上記3作業のいずれかに従事した期間、またはそれらを合算した期間をいいます。ただし、平成8年以降の従事期間は、実際の従事期間の1/2として算定します。


4ー4.良性石綿胸水の認定要件

胸水は、石綿以外にもさまざまな原因(結核性胸膜炎、リウマチ性胸膜炎など)で発症するため、良性石綿胸水の診断は、石綿以外の胸水の原因を全て除外することにより行われます。そのため、診断が非常に困難であることから、労働基準監督署長が厚生労働本省と協議した上で、業務上の疾病として認定するか否かの判断をします。


4ー5.びまん性胸膜肥厚の認定要件

石綿ばく露労働者に発症したびまん性胸膜肥厚であって、肥厚の広がりが下記の一定の基準に該当し、著しい呼吸機能障害を伴うもので、石綿ばく露作業従事期間が3年以上ある場合(以下の①~③全てを満たす場合)に、業務上の疾病として認められます。


① 石綿ばく露作業3年以上

② 著しい呼吸機能障害がある
◆パーセント肺活量(%VC)が60%未満である場合 など。

③ 一定以上肥厚の広がりがある
胸部CT画像上に
◆片側のみ肥厚がある場合 → 側胸壁の1/2以上
◆両側に肥厚がある場合 → 側胸壁の1/4以上


5.お早めに弁護士にご相談ください

労災保険の給付金は、申請してから支給されるまでには数ヶ月以上先になることがしばしばあります。いざとなってから慌てなくてもよいように、なるべくお早めに申請なさることをお勧めしております。
以前、「本格的な闘病が始まる前に給付金の申請を済ませておきたい」と仰って当事務所にご相談にいらした方がいらっしゃいました。労災認定がなされれば、日々の治療費(療養補償給付)や生活費(休業補償給付)などを受け取ることができます。ご相談者様の中には、長期入院や抗がん剤治療など、厳しい闘病生活をされている方もいらっしゃいます。治療費や生活費を心配することなく、治療に専念していただくためにも、当事務所では、お早めの労災申請をお勧めしております。
また、「家族へ少しでもお金を残してあげたい」と仰って当事務所にご相談にいらした方もいらっしゃいました。万が一被害者様がお亡くなりになった場合でも、ご遺族は労災保険から葬祭料や遺族補償給付などを受け取ることができます。金額は被害者の方の年収やご家族の状況などにもよっても異なりますが、遺族補償給付だけで数百万円以上になることも少なくありません。
なお、お亡くなりの方に関する申請の場合、死亡から5年を過ぎると、消滅時効が到来し、遺族給付を受けられなくなりますので注意が必要です※。
※労災保険の遺族補償給付請求権が時効で消滅してしまっていても、それを救済するための「特別遺族給付金」という制度が2022年3月27日までは利用できます(2022年1月12日現在)。詳しくは厚生労働省ホームページ―特別遺族給付金をご覧下さい。
また、当事務所では、労災保険への申請だけでなく、弁護士へのご相談もお早めをお勧めしております。アスベスト被害者の救済制度は、労災保険だけでなく、複数ありますが、各制度には、それぞれ異なる対象者や認定要件、それぞれの必要資料がありますので、一般の方が政府のホームページや労基署のマニュアルなどを独力で読み解いて疑問を解決するのは大変です。
「俺のケースは当てはまるのかな?」
「自分は職場を転職してきたけど、労災申請できるの?」
「元勤務先が倒産してしまっている場合、どうすればいいのかな?」
「お父さんは幾らくらいもらえるのかな?」
「亡くなった主人が務めていた会社について、何もわからなくても申請できるの?」
このように、アスベスト被害に関する疑問がおありの場合には、おひとりで悩まず、お気軽にお問合せください。”ちょっとした”疑問であっても、弁護士が責任を持って回答いたします。

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弁護士 小林玲生起 写真 弁護士法人シーライト藤沢法律事務所

弁護士 小林 玲生起

神奈川県弁護士会所属。藤沢生まれ、藤沢育ち。アスベスト給付金申請の代理業務については弁護士向け教材の講師を務めるなど、詳しい知識を持つ。